王の眼を読んでいる

王の眼〈第1巻〉 (文芸シリーズ)

王の眼〈第1巻〉 (文芸シリーズ)

 「天の華・地の風」で80年代のJUNE界を震撼させた江森備さんの「王の眼」全四巻。
 以前一巻の半分だけ読んで、うーん、古代エジプト、親しみのもてないテーマ――つか、固有名詞がわかりにくいんだよ、と、ずーーーっっと積読のままだったのを数日前、なんとはなしに手にとったのだけれども、お、おもろいやんけっ。
 三巻途中まで読んだところだけども、いやあ、凄い。天華地風はもちろん、日処天や残神支配や薫や榊原などなど、重量級長編JUNEを味わっているような充実感。
 たしかに、作品の舞台からして、ハードル高いんだけれども(――もう、きちっと歴史や宗教もろもろ調べあげて作品に溶け込ませてますからっ)、それをおしても、これはJUNESTとして読むべき一冊であるな。
 いま、ふと思ったところを書きとめ。

・敵方の宰相・ネフェルトゥムと国王・セティは、魏延孔明的な共犯関係。自らが捕らえられながらもセティの命乞いをするネフェさんはかぎりなく江森三国志ラスト的。
・主人公のハルの好感度の悪さは異常。思慮浅く、粗暴で、不遜で、怠惰で、好色で、視野が狭い。でも、これ、男性作家が書いたら、けっこう典型的な少年漫画ヒーローというか、普通に素敵な英雄になっちゃいそうでもある。本宮ひろし的キャラというか。
・だから、江森さんはフェミニストなんだな。江森三国志でもそうだったように、ここでも男性社会的価値観の悪しき部分をねっちりと書き上げている。その腕力は物凄い。
・だから「男性」に人としての誇りを踏み潰され、「女性」にされた過去のあるセティとネフェルトゥムはともに孔明ともいえるかも。作者自身の似姿なのかな、と私は感じてしまう。
・関係ないが、贔屓キャラは、大人の度量と行動力を兼ね備えた(とっても魏延的な)武人イアンパパと、おバカなハルに絶望しながらもはなれることの出来ない(生まれもってのお世話キャラの)異母兄アンプたん。
やおい萌えなら、ネフェ・セティ・カームテフ・アアシェリの四角関係でっっ。寝技でカーフテフを篭絡するセティさんと、それを嫉妬するネフェさん(――中庭にささやかな家庭菜園作ってたり、鳩をいっぱい飼ってたりしてます、泣く子も黙る国家の頭脳なのにっっ、かわうぃ)、萌ゆるぅ。
・結果的に二重スパイ的行動をとってセティを裏切ったカーフテフは、江森三国志で言えば姜維かな。でも二巻ラストで後追い的に自殺したのに、哀。
・国家が少数の異民族に蚕食されて瓦解していく様が妙にリアル。平和ボケして相手の文化を理解しようとしない異邦人を懐に招き入れると、とんでもないことになるんだなぁ。
・ハルとアンプの父であり、諸悪の根源、ウシル前王は、残神のグレッグに見えてきた。劣等感の強い田舎漢って、ろくなもんじゃないよね。その攻撃衝動、どうかしてるよ。
・今回、文体がヒロイックファンタジーを書く時の(全盛期の)栗本薫にかなり近いのに、驚き。当時の薫からくだくだしさを三割減させて読みやすくさせた感じ。さすが小説道場最高位の門弟。いっそグイン・サーガ、江森さんが書けば……。


ってわけで、続き、読んできます。