高井麻巳子 「Message」

 88年6月リリースの高井麻巳子のラストアルバム。
 アルバムリリースの前月に高井は秋元康電撃結婚・引退。このアルバムのプロモーションはほとんど行われなかったと記憶している。
 歌唱力はまったく向上していないにもかかわらず、表現力だけはしっかり向上しているのは、恋の魔術か。伸びきったラーメンのように腰も味もない"おにゃんこ声"を脱し、切なさ溢れる少女趣味な世界を作りあげ、彼女のラストにしてベストと、私は推す。
 作家は、麗美岸正之中村哲ら、特に半数担当の山口美央子が実にいい仕事をしている。
 当時の彼女の同業他社は南野陽子斉藤由貴あたり、いわゆる深窓のお嬢様路線を敷いていたと記憶しているが( ――ちなみに高井のディレクターは斉藤由貴と同じ長岡和弘 )、その中にあって、よりいっそう素朴なところが彼女の持ち味。南野・由貴に漂う、乙女指数の高過ぎるがゆえにあぶなっかしい部分、というのはない。
 「そっと伝えたい 隠していたわけじゃない わたしの決心」と涙声でゆらぎながら歌う高井の自作詞のラストソング「小さな決心」はファンなら涙なしには聞けないだろう。
 とはいえ、この素朴美少女っぷりが、彼女の計算ずくのセルフプロデュースであったのには、驚く。彼女は結婚後、友人の斉藤由貴にかように語っている。


「私ね、私は絶対幸せになるって決めていたから、どんな風にして、どんな幸せをつかむのが一番私にとっていいのかを考えたし、そうして手に入れた幸せはきちんと守っていくつもりなんだ」

(斉藤由貴 「私の好きなあの人のコト」 新潮社刊)


 げに力強き、美少女の上昇志向。
 人は顔ではわからんものです。