田中陽子 「陽炎のエチュード」

アニメ『アイドル天使ようこそようこ』の田中陽子、三枚目のシングル。90年10月発売。
幼い頃になんとなくテレビを見ていて印象に残っていたのを改めて聞いた。ああ、これ、ツボだわ。
斉藤由貴谷山浩子を手がけたキャニオンの長岡組らしく、デビュー一年目のシングルはすべてタイトルに名前の「陽」をいれて「学園」を舞台にして、と統一感をだしていたようだけれども、今作の舞台は同じ学園でもマニアックに「寄宿舎」。
夜、眠れずにベッドを抜け出し、長い廊下の窓の向こう、プールに浮かぶ月を見ていた。窓のこちらは教科書と賛美歌の世界。窓のむこうは砂漠からの激しい風が吹く。三年は長い旅のようにはてしない。けれどここでの退屈も悲しみも全部幻だといつかみんな気づくだろう。――という内容。
サウンドは打ち込みメインで、詞に「砂漠」というワードが何度も出てくるところからエキゾっぽい雰囲気を織り交ぜつつ、スピーディーな展開で魅せるという感じ。
「入学式の体育館であなたの微笑みをはじめてみた」とか、「破いたノートを紙飛行機にして光り照り返す夏の河に飛ばす」とか、ファースト・セカンドにあった共感に得るに足る最大公約数的な学園ソングから一歩踏みでて、天使だ悪魔だ砂漠だ寄宿舎だとお耽美な方向にいったのが、多分幼きわたしのハートを掴んだろうな、うん。

田中陽子さん自身は「美少女」というにはあまりにもフツーな容姿だったけれども、妙に大人びたムードをもっていて、笑うと年不相応な艶っぽさが漂うのが魅力、という山口百恵タイプのビジュアルの持ち主だったけれども、時はアイドル氷河期、アニメとのタイアップも虚しくさしたる結果も出せず、また事務所と本人の折り合いも悪く、アニメ「ようこそようこ」終了とともに引退、これがラストシングルに――。
この歌を歌う時、デビュー一年とは思えぬシャープな顔つきで歌っていた(――歌唱も一気に安定した)のがとても印象的で、もうちっと先の展開が知りたくもあったけれども、アイドル時代末期の仇花で終わって本人的には良かったのかもしれない。
この時期デビューのアイドルで芸能界にしがみついて結果良かったなっていう人、少ないもんなぁ。