なぜか、岩男潤子
◆ 岩男潤子 「はじめまして」
80年代でもっとも悲惨なアイドルグループ・セイントフォーからまさかよもやのサバイブを果たした声優・岩男潤子のソロデビューアルバム。95年発売。作家陣は山本はるきち、来生たかお、川井憲次、羽田健太郎など。
って、もう、これ、どうあがいてもアイドル声優のアルバムだな、おい。アイドル声優に萌えるヌルいキモオタ男相手に岩男ねぇさんがんはってサービスしております、という感じ。
声が、あんまりにもわざとらしく可愛らしいんだよね。
海っぱたで風に吹かれながら、つば広の帽子に純白のワンピースでにこっ、みたいなジャケット写真ともに「こんな都合のいい女いねーーよっっ」と思わず叫んでしまうこと必至かと。
「このアルバムを聞いたら、誰だって彼女にしたくなる」て帯コピーからして、そのあたり完全に狙いすましているんだろうけれどもね。
谷山浩子や山本はるきちとの出会いから、後にアーティスト志向が俄然強くなっていった彼女だけれども、はじめの一歩はとてもぬるかったようです。基本的に物語性のある声の持ち主なので、聞かせるアルバムではあるんだけれどもね。と軽くフォロー。
◆ 岩男潤子 「エントランス」
96年発売の二枚目。一転して聞かせる作りになっているぞ。これ。音の出るファングッズとはもう呼ばせない。そんな感じ。
プロデュースは斉藤ネコ。作家陣は谷山浩子、尾崎亜美、小林明子、相曽晴日、YOU、福原まりなど全て女性アーティストで固めており、プレイヤーも上記作家陣にプラス、鈴木茂、松武秀樹、小原礼、窪田晴男、石井AQ、吉川忠英など一流どころがずらり。
これは典型的な良質の80'Sアイドルアルバムだな。一番近いのが、「スカイパーク」とか「ハーフシャドウ」の頃の河合奈保子。自作自演志向の強いシンガーが、先輩シンガーソングライターたちと共同作業って感じの一枚。
ファンの需要にこたえるために詞は一貫して保守的でありていな女性像に終始しているけれども、それなりに物語性があるし、サウンドはかなり上質で攻撃的。詩情溢れる「太陽の国」や「勘違いのワルツ」「晩夏」、鈴木茂のギターが唐突に咆哮する「鳥篭姫」あたりが個人的にはツボ。このアルバムを契機に、彼女は歌手になってしまう。
◆ 岩男潤子 「kimochi」
三枚目は谷山浩子プロデュース。97年発売。
作家陣は谷山をはじめ、崎谷健次郎、いしいめぐみなど、といつもの谷山人脈。また岩男潤子自身が作詞・作曲で四曲参加。
キモオタさんののぞむ少女趣味と、不思議少女ののぞむ少女趣味が合致した見事な谷山浩子のプロデュース。アイドル声優的あざとさは前作より強いんだけれども、むしろそのあざとさがぎりぎりのラインでいい意味で個性になっているあたりが谷山マジックかと。てか、久しぶりのアイドル系仕事に、谷山先生、本当楽しそうです。
こりゃ、もうどうみても不思議ちゃんぶりっ子だろ、みたいな「SHIPPO」や「あそびにいこうよ」など、年齢からいってあんまりにも可愛い歌は歌いにくくなったのを、ここでは久々に全開。フォーク回帰的な「おひさま」にほっこりしたり、切ないメッセージソング「ここにいるよ」「パタパタ」にしみじみしたり、全体のうねりもほどよく、良作といって差し支えない出来かと。
このアルバムで彼女はさらにアーティスト志向を深め、プロダクションも声優をメインにマネジメントしている81プロデュースから移籍し、翌年には山本はるきちと結婚する。