渡辺満里奈 「a piece of cake !」

 90年夏発売のアルバム。当時今井美樹にバリバリ曲提供していた上田知華に、遊佐未森とのコンビで大活躍だった外間隆史、ダブルノックアウトコーポレーションことフリッパーズギターのおふたり、と、作曲家陣にそれぞれプロデュースを任せて作られたアルバム。87年のクリスマスに発売したミニアルバム「CHRISTMAS TAILS」の延長にある作品で、いわゆる明確に「脱アイドル」をコンセプトにして作られているといっていいかな。
 歌番組が総倒れしたし、二十歳越えちゃったし、アイドルシンガー商売も難しくなった90年の満里奈、とはいえソニーレコード直結傘下のエイプリルミュージック所属としては、たやすく歌を止めるわけにもいかず、あえてセカンドステージに果敢に突入してみた、と。「みなおか」人気に引っ張られるように、男性ファンは元より女性ファン層も増えつつあったので、こういう展開もアリ、と読んだのだろう。
 キャローンてわめいたり、へたうま漫画風エッセイ書いたり、ブレイクしそうなバンドの前をうろうろしたり、台湾グルメにはまったり、テラピィスだかなんだか癒しでロハスになったり、子供服のブランド立ち上げたり、と、その後の彼女のサブカルぶりっ子キャラは、このアルバムがはじまりだったんじゃないかな。
 作品は悪くないんだけれども、小泉今日子のなり損なったような感じがしなくもなく。こういう企画って、歌い手は御神輿に乗せられてなんぼでしょ。なんか、周囲のお膳立て感が足りない。そういう意味では、いっちゃん愛のあるのがパーフリのお二人の作品で、ここだけが残るかな、と(――て、その後の噂の真相はワタシは知りゃしませんが)。
 満里奈って、ソロデビューからこのアルバムの直前まで、山川恵津子をメインのサウンドプロデューサーに迎えて「女子高・大生版 竹内まりや」みたいなアイドルポップスでもあり、脱アイドルでもありという、おにゃん子系歌手としては異様に洗練された絶妙なラインの歌を築きあげていたわけで、それらと比べると、平板な「脱アイドル」だな、と、正直思ってしまう。
 山川女史や大江千里や山本はるきちがいない満里奈の歌なんて、と思わせてしまうあたりで負け試合な企画なのだけれども、まー、本人がやりたかったんだろうなー。今までは大人に言われるままにオーダーメイドの服きてたけど、本当はあそこのお店で売ってるつるしの服が着てみたかったんだよ、と。うーむ。