原田知世 「PAVANE」

 いま、知世のレビューするなら「floating pupa」や「music & me」をやれといわれそうだが、ひとまずコレ。 85年の年末、彼女の18歳の誕生日に発売のアルバム。
 当時のアイドル女優・原田知世を象徴する名盤、かつ、アイドル時代の作品で今の彼女の音楽世界に最も近い作品といっていいんじゃないかな?
 角川春樹酒井政利の二大御大の総合プロデュースに、さらにリリックプロデュースに康珍化、実質ディレクションは今は大貫妙子担当の吉田格、作家は、大貫妙子かしぶち哲郎加藤和彦佐藤隆麗美伊藤銀次大沢誉志幸という眩暈がするほどの豪華布陣。
 Water Sideと銘打たれたA面すべてが萩田光雄編曲、これが彼、お得意のストリングセクションで纏め上げられていて、破綻なく美しく、しかもほんのりと漂う欧州趣味がなんとも高貴。この世界から一気に「彼の彼女のソネット」に飛び、さらに「Silvy」と飛んで、そこからは地続きで今の彼女の世界に繋がるという感じ。
 「水枕羽枕」や「羊草食べながら」の無垢なあどけなさと「姫魔性」や「早春物語」の毒気と妖しさ、「紅茶派」の気品、それらがひとつの人格としてふしぎと繋がっていてしまうのが、当時の彼女の歌手としての良さだと、私は思う。彼女の歌声は、透明感があるのに、どこか毒を孕んでいて、怜悧で切れ味の鋭いのだ。
 一方の、B面はLight Side、井上鑑が編曲し、わかりやすいアイドルポップの世界。
 「いちばん悲しい物語」「ハンカチとサングラス」は「愛情物語」「天国にいちばん近い島」などの林哲司作曲のAOR清純アイドルポップ路線の延長といっていいし、「カトレアホテルは雨でした」は井上鑑加藤和彦両者お得意のオリエンタル歌謡、ラストを飾る「続けて」は翌年からはじまる後藤次利プロデュースによる歌謡ロック路線を予感させる作品となっていて、散漫な感は否めないが、A面の高貴さと好対照の親しみのある世界が広がっている。
 まだまだ拙さがある時代だけれども、「歌手・原田知世」のはじめの一歩といってもいいひとつの志向性を感じる。