門あさ美 「ベラドンナ」

BELLADONNA(紙ジャケット仕様)

BELLADONNA(紙ジャケット仕様)

 人材の宝庫・80年代のヤマハにおいても、とりわけ謎めいた場所にいたシンガーソングライター門あさ美
 アルバムがベストテン内に定期的にインする程度には売れていたのだけれども、シングルヒットもなく、ライブツアーやメディアへの露出もあまりなく、ソフトフォーカス気味の写真にふんわり写るきれーなおねーさんなご本人の姿もどこか実在感が希薄。サウンドも「ファッション・ミュージック」というキャッチ・コピーがつけられたように、なめらかに洗練されれた音が強い主張もなくアンニュイーにゆるーく流れてゆくのです。
 そんな彼女がテクノ・ニューウェーブ化によってさらに進化した85年のアルバム。オリコン最高位は十位。
 SF的に近未来ファンタジーであり、ダリのようにデカダンでシュールであり、リゾート感覚もあり、もちろん艶めいてアンニュイでもあり、という不思議な一枚。
 南国の海辺のテラスで銀色のアンドロイド相手に緑色のカクテルを飲み干すアンニュイな美女、といった趣か。タッチとしては矢野誠かしぶち哲郎と組んでいたこの時期の石川セリの作品が一番近いかな。「メビウス」とか「楽園」とか。
 全作詞作曲は門あさ美本人で、ビシバシ打ち込みのエキセントリックなアレンジは岩崎工、鷺巣詩郎白井良明がそれぞれ担当。この時期って意外な人が意外とテクノしてたりするから面白いよなぁ。歌唱も今までと一変、ロリータぎみなウィスパーで迫っとります。ちなみにジャケ写は佐藤奈々子女史。
 美しい夢の切れ端のような取りとめのなさがこの作品の妙味。聞いている間はとても魅惑的なのに、聞き終わった後につるりと忘れてしまう所がある。アレ、これって結局なんの歌だったっけ?みたいな。とらえどころがない。
 このあと彼女はヤマハを辞めて高橋幸宏の事務所に移って、幸宏プロデュースで二枚アルバムを作って歌手廃業。