風邪、なんとか治ってきたので、復帰。

◆ 伊東真由美 「美人声」

 92年作品。中森明菜へ提供した「Dear Friend」を含む全9曲――というわけで、「Dear Friend」目当てで買ってみたわけだけれども、この方、どういう方なんざんしょう。このアルバムは伊東真由美さん自身のプロデュースで、全作詞と作曲もほんの少し担当、なんかいかにも美大でました的なアートっちい歌詞カードのイラストレーションも彼女の作品、ってわけで、芸術系のマルチアーティストみたいな感じで売り出していたのでしょうか。城戸真亜子みたいな ?
 ただ、調べると女優仕事なんかもしていたみたいで、謎。現在の芸能活動も謎。
 とはいえこのアルバムに関しては、意外な好盤。テーマは、都会に住む独身女性のシュールレアリズムだな、これ。
 ブランド品とか意味もなく転がってる生活感のない1DKの板張りの床の片隅にふわふわと幻影が浮かんでいる、という感じ。ありきたりの現実ようでいて、どうも別世界のようでもあり、という不思議な浮遊感。「ドラキュラ感覚」とか「電車の中に咲く花」といったあたりが、彼女の独特の感覚と見る。アイリッシュテイストの「月の小舟」、ファンタジックな「この街の夜は……」あたりもなかなか。 孤独で、なんだか満たされていて、ふらふらと人気のない夜の街を散歩している感じ。
 ただ「Dear Friend」の大胆なリアレンジはちょっとびっくり。「Dear Friend」に詞にある単純なポジティビティーは、どうやら彼女の表現したい世界ではないのだな。詞がわかりやすいぶん、サウンドでひとひねりふたひねりしてある。
 声はセクシーでアンニュイでみずみずしい。アルバムタイトルにたがわぬ美人声であった。