布施明 「古い上着をぬいで」

 74年夏発売、ってことは「積み木の家」のヒットのご祝儀アルバムかな。A面が作詞・プロデュース/寺山修司、作・編曲/前田憲男によるミュージカル仕立ての組曲火の鳥」。B面が全作詞作曲、布施明本人による「そして26…」。ミニアルバムふたつをひとつにしてみましたといったところか。
 「火の鳥」は、コスタリカのあたりの南の島に観光に行ったら現地の少女と恋に落ちて、という物語で、曲間にナレーションなどを置きノンストップの構成になっている。ストーリー自体は、結構ベタというか酷いというか、女の子の扱いがおよそ最低なんだけれども、寺山の男性原理な酷いストーリーに、布施明のぶっとく不器用な演技がこれ、意外とはまっている。「日出処天子」の蘇我毛人的な、偽善的爽やか好青年を見事演じとリます。
 布施さんは、前時代的なくっさいことを恥ずかしげもなく演じ切れるところが強みだよな。ズバーン!!とかダダダダーン!!みたいな擬音をバックに背負えるキャラというか。寺山修司の詞は「戸を叩くのは誰」とか「眠るのが怖い」とか「悲しみという名の猫」とか「さよならだけの再会なんて」とかどっかで聞いたような言葉が出てくるのは、どうなんでしょうか?
 「そして26…」は、ジュリーの「僕は今幸せです」とか、アレね。地味ぃ〜にフォーキーに善人じみた世界がひろがってます。スターの作った自分用の歌って感じ。作品としてどうこうというよか、まあ、やりたいんだから仕方ない。赤坂のギター弾きのプレイボーイ「とおる君」とははたして誰のことだろうか。