「自由な女神たち」

「自由な女神たち」
監督・久世光彦、主演・松坂慶子桃井かおり。二人の女の友情を描いた人情コメディー。1989年作。

典型的な久世ドラマだなぁ。これ。
お茶の間乱闘あり、風呂場ヌードあり、唐突な歌あり、ドタバタのひと悶着の末最後はほのぼので落とすという、心底の悪人が一人もいない性善説な久世ホームドラマの世界。
草津温泉のキャバレーの歌手の桃井と松坂、お人よしで涙もろい少々頭のネジのゆるいボケ役の松坂、舌先三寸で気まぐれで強がりなツッコミ役の桃井。場末のふたりが喧嘩しながら、身を寄せ合ってたくましく生きぬいていく。
桃井・松坂ともにベタはまりの役どころで、松坂の馬鹿がつくほどの純情ぶりはあいかわらずこちらが不安になるほどあぶなっかしいし、桃井は桃井で幸せに自らそっぽ向くような気まぐれっぶりがあいかわらず憎たらしくも、いじらしい。
久世演出でこの二人の女優が出るのなら多分こういうものだろうなぁ、という予想の範疇をまったく出ることのない、いわゆるクリシェの横溢のような映画なのだが、そこに不思議と安心感があり、充実感がある。安心できる退屈しないクリシェの世界を作っている。
役者も製作者も「いつもの世界」を真剣に作っているからなんだろうなぁ。決して絵から「だれ」を感じることがない。やっぱり桃井は桃井の演技の世界でリアリティーを出してくるし、松坂も松坂でやっぱり芝居が上手い。それを撮る久世も決して外していない。
とはいえ、画面から「真面目です」って顔をしているようにしかつめらしく芝居をしているわけでなく、風のように軽くさりげなく絵を撮っているし、芝居をしている。大人の、プロの仕事だ。
これをといった特出した点はなく、映画マニアや評論家から支持されるような作品でないけれど、むしろこういう泥っぽいエンターテイメントのほうが私は好きだ。
戦後しばらくの日本映画黄金時代のプログラムピクチャー(特に松竹あたりの)へのリスペクトのようにも感じられたがどうだろうか。
しかし、桃井かおりが久世の手にかかると妙に樹木希林っぽくなるなぁ。ま、樹木ほど化け物っぽさがなく、そのぶん山猫っぽい不機嫌さが増しているから確かに毛色は違うけれど……。

昔、桃井と竹下景子でやった連作ドラマ「危険なふたり」―――ジュリーマニアで30がらみの女結婚詐欺師二人組のくりひろげる久世演出によるドタバタ人情コメディー、が見てみたいなぁ。見たことないのよ、私。多分「自由な女神たち」と同工異曲のような関係のような予感がする。