今井美樹 「elfin」

ブレイクのきっかけがいまいち見えない歌手って、何人かいるけれども、彼女もそのひとり。で、そんな彼女のブレイクポイントといえるのが、セカンドアルバムの「elfin」。
 87年9月発売のこのアルバムで20万枚近いセールスを記録し、レコード大賞の優秀アルバム賞を受賞。先行する芸映系アイドル河合奈保子石川秀美芳本美代子・菊地桃子・西村知美らをこのアルバムで一気にぶち抜いている。
 以降88年にはアルバム「Bewith」でチャート1位を獲得、シングルも「彼女とTIP ON DUO」が本人出演の化粧品のCFタイアップで初のヒット、 89年年末の発売の「Ivory」がミリオンセールスを記録、と、その後の歌手としての破竹の快進撃は皆さんご存知のとおりなんだけど、なんでこのアルバム、売れたんざんしょ。

 このアルバムのタイアップは2曲。未シングル「SAYONARAの行方」はNTV系「ザ・びっくり地球人!」テーマ曲って、なんだそりゃ、だし、先行シングル「野性の風」は映画「漂流教室」の主題歌だったけれども、映画も主題歌もコケたしなぁ……。この時点でシングルヒットはひとつもないわけで。一応女優としての活動は、84年の「輝きたいの」以来コンスタントに続けていたけれども、こちらもこれといったヒットはなく、って、そもそも当時の彼女はアイドルドラマの添え物的脇役ばっかだったし、そのなかで久世光彦ドラマ「麗子の足」で着実な演技したり、テレビでお馴染み井筒和幸監督「犬死にせしもの」で大胆ヌードを披露したりと、つまりは、スタッフ受けする地味な演技派女優のベクトルへと進んでいる感のあった彼女だったんだけれども、それがさしたる仕掛けもなくいきなり歌で、しかもアルバムで火がついたというのがどうにもこうにも不思議。と、今改めてじっくり鑑賞してみる。

 結局この人の勝因って、歌手ではじめてビジュアルイメージ・歌唱法・詞曲を全てF1層に照準を定めたところなのかな、とふと、思った。
 ぶっちゃけていえば、もともとMCシスターのモデルあがりの今井美樹って、当時からいわゆるF1層のファッションリーダー的支持はある程度あったわけでしょ。その辺のイメージにプラス、当時のF1層に馬鹿受けなユーミン的ソングを当てはめる。その掛け算がうまくいっていたのかな、と。
 ユーミンが、今井登場の少し前にこれまた当時のF1層の圧倒的な支持を受けていた小林麻美に歌を歌わせて大ヒットした「雨音はショパンの調べ」、あの方程式と同じなのかな、と。「ユーミン的世界観の歌を、ユーミンがこうありたいと思うようなビジュアルの20歳ちょいすぎの女性ファッション誌受けするスレンダーな女性が歌う」っていう。
 まぁ、だから役者としては、今井でなくっても、浅野ゆう子でも浅野温子でも、いっそ中森明菜でも良かったんだろうけれども(バブル期のF1層のファッションリーダー四天王は、多分この四人だと思う)。この四人の中では、一番色のなかった――つまりは代表作のなかった彼女がその役割としては、適任だったのかな、と。声質も情念薄めに感じる彼女のボーカルが一番無難だろうしなあ。(ユーミン大好きの中森明菜が自殺未遂後しばらく「今井美樹ちゃんみたいな歌を歌いたい」としきりに発言、で実際アルバム曲などで裏声使いまくって、今井美樹的楽曲を歌ったりしていたが、まぁそれも、そんなこんなな理由だったりするんだろうなと、蛇足)。
 って、楽曲のこと何も言ってない――けど、まあ、いいか。バブル、ナチュラル、男モノの白のワイシャツをパジャマ代わり、って感じでした。歌う女性ファッション誌。後に彼女の作品でメインを張る上田知華柿原朱美岩里祐穂の三巨頭登場以前だけれども、世界観はまったく変わらず。あとあと、「SAYONARAの行方」のイントロがまんまガゼボの「マスターピース」なんで笑った。秀美といい奈保子といい宏美といい、芸映ってパクリ好きよね――。