岩崎宏美 I won’t break your heart

 ジャパンマネーを!今!ガイジンの懐につっこむ! 芸映のバブルアルバム四部作(――って今勝手に名付けた)の第一弾。84年発売。
 お金をいっぱい用意してロサンゼルスに行ったらビッグネームのアーティストがいっぱい参加してくれたお、ってわけで、ロサンゼルス録音でデビッド・フォスター、スティーブ・ルカサー(TOTO)、ビル・チャップリン(シカゴ)、ラルフ・ジョンソン(EW&F)など、超有名アーティストがぞくぞく参加。作・編曲全てのサウンドメイクがロサンゼルス産で、それを岩崎宏美は和訳した日本語詞(――詞は山川啓介・佐藤アリスが担当)で歌っている。松田聖子Citron」、河合奈保子「Dayderam Coast」「9 1/2」の長女的作品といってもいい。
 このアルバムは一曲目のイントロからして音の抜けがぜんっぜん違う。今までのは一体なんだったんだっていうくらい違う。しかもこの再発売の紙ジャケ、異様に音質が向上しているな。音がきらっきらしている。ボーカル最充実期のこの頃の岩崎宏美で、このサウンドなのだから、超がつく磐石な出来でなにひとつ文句をつけることはない良盤なんだけれども、ただ、今回おまけでついてきたボーナストラックのシングル・カップリングの七曲を続けて聞くとどちらがいわゆる多くの人が求める「岩崎宏美の世界」なのかと比べると、本編よりもむしろボーナストラック側なんじゃないかなと思ったりもする。洋楽の宏美もいいけど、シリアスな詞にドラマチックな展開のマイナーメロディーを高音の伸びでぐわーと歌い倒すっていう「聖女達のララバイ」ラインの世界がやっぱり一番しっくりくるなっていうね。
 実はこの再発売盤で個人的に一番の収穫は、聞いたことのなかったカップリング曲だったりするわけで。B面でも魅せるなあ、彼女、って。「逃亡者」も「眠りの船」も「二時に泣かせて」もボーカリストとしての彼女の魅力を了解しきった上で制作されたのだろう実にプロフェッショナルな「歌謡曲」なのだ。
 岩崎宏美は強い洋楽志向を持っているアーティストのようで、このアルバムではたと自分の音楽志向を再認識したのか、このアルバムのリリース直後に事務所独立、以降はAOR色の強いアルバムを連打するようになっていき、しかも益田宏美から岩崎宏美に再び戻って以降は今井美樹的な癒し志向も混入するようになって現在へと到るという感じなのだけれども、そういった意味ではこのアルバム、個人的には好きだけれども、痛し痒しといった所もあるなぁー。
つまり「歌謡曲」ではなく爽やかポップスを歌う今日の岩崎宏美に至る大きなきっかけのひとつのアルバムってわけで、ま、それが本人の強い意志であるなら仕方ないのかもしれないですけど。ど真ん中の歌謡曲はやりたくないんでしょうかね。次アルバム「戯夜曼」はそのあたりの岩崎宏美のファンが求める湿った歌謡感と本人のAOR志向が絶妙のバランスで成立していて傑作だと私は思う。