児島未散 「ジプシー」

 91年のヒット曲。浅野温子が出演するライオンのシャンプーのCFソングとして大量オンエアされたことがきっかけとなってヒットを記録した。CMでサビを一瞬だけ聞くと当時アイドルでひとり勝ち状態だった工藤静香に声がそっくりに聞こえるけれども(――それが聞き手にとってフックになったんだろうな、あ、今度の静香の新曲いいかも、と、私もうっかり思ったし)、実際とおしで聞くとそこまででもなかったのが今でも不思議。
 作・編曲は馬飼野康二、作詞は浅野温子の旦那でCMプランナーでもある魚住勉――ってわけで初めからコマーシャルありきの企画ソングといった方がいいのかな。歌謡感の高い湿ったサウンドで「謎めいた女」を歌うという、「桃色吐息」系のいわゆるカラオケバーの似あうアダルティーな一品に仕上がっている。
 児島未散宝田明児島明子の娘で、85年に歌手デビューするがこの曲のヒットするまでとりわけの履歴があるわけでもなく、アイドルともシンガーとも女優ともモデルともタレントともつかない感じのポジションだった。ポピュラリティーのない今井美樹といったところか。よく言えば二世タレントらしい《がっつかない》ところが、美点でもあり欠点でもあったわけだが、この曲ではそんな「いいところのお嬢さん」を越えて「いい女」たろうとしている。頑張って舌ったらずな舌をのばして背伸びしている姿も微笑ましく、それが多くの人の心に刺さったのだろう。ヘタウマな歌唱を含めて味わいがある。ま、曲自体、当時なら工藤静香とか中森明菜とか中山美穂とか、アダルト志向のアイドルシンガーなら誰でも一定の成果のあげられるだろう佳曲ではあったのだろうけれどもね。
 とはいえ彼女にとってのアダルト歌謡はこれだけ。後に発売された同名タイトルのアルバム「ジプシー」で既にこの路線は限界だったようで、すぐにもともとの領域である平明な同世代のOL向けAORへとハンドルを切り替えていくようになる。ただそちらの世界はちょっと凡庸がすぎるようで私は好かんとですよ。その後の彼女は歌手活動休止し「金八先生」に出演するなど女優として活動していたが、今は引退している。
 ちなみに事務所は欽ちゃんの浅井企画。ホント、いい人そうで押しの弱い人が好きだよね、ここの事務所は。