障子久美 ゴールデン☆ベスト

ゴールデン☆ベスト 障子久美 in Victor Years

ゴールデン☆ベスト 障子久美 in Victor Years

 不況の影響か、近年は各レコードメーカーが音源発掘に意欲を燃やしまくっているようで、なかには「こんなものが?」というものまで復刻されたりするのですが、そのひとつ。今秋のビクター怒涛の「ゴールデン☆ベスト」リリースに障子久美のベストがまぎれてるよ、おい。――って、大方の人にとっては誰それだよな。ビクターの中の人にファンがいるな、これは。
 「天国のドア」「ラブ・ウォーズ」と日本のポップス界がユーミン一色に染まったバブル絶頂の90年に、ユーミン夫妻の主催する音楽スクール「マイカ・ミュージック・ラボトラリー」出身の《ユーミン秘蔵っ子》として鮮烈デビュー!――したもののいまいちセールスはふるわず、てこ入れでドラマ主題歌に起用「あの頃のように」が20万枚のスマッシュヒットとなったもののあとが続かず――ていう障子久美さんです、っていわれてもやっぱり知らない?
 でもこれ、意外と聞けるんだよっ。どんな感じなの? ざっくり云えば「暑苦しくない広瀬香美」。ひろせこーみたんが濃口のおたふくソース味だとしたら、障子久美はあっさりだし醤油味。
 ブラックコンテンポラリーをベースにしたポップスを、安定した歌唱力でさらりと爽快に薙ぎ倒しております。
 個人的にはファンキーな「わかっているわ」「heartache」「Labyrinth」が好き。
 彼女の敗因の最大の原因は《ユーミン一派》としてデビューしたことなんじゃないかなあ。
 バブル到来直前に90年代型女性向けコンテンポラリーミュージックの雛型を構築したユーミン。その後にブレイクした女性アーティストは、今井美樹平松愛理、ドリカム、竹内まりや広瀬香美などなど音楽性の別はあれども、詩の世界に「主役は私」といった独特の押し付けがましい自意識があったとわたしは思うんだよね。
 一方で、ユーミン翼下でデビューしたのに、彼女にはそういう部分がどこか希薄なのだ。存在のありようで云うと、どちらかと言えばそれ以前の、中原めいこ渡辺真知子八神純子石川優子EPO飯島真理といった70年代末期〜80年代前半デビューのニューミュージックの歌姫に近い印象がある。
 ともあれ、ユーミン的世界を期待してこれ持ってこられると、確かにかなり残念な気持ちになるよ。その辺のミスマッチはマーケティング的にかなり損失大きかったと思うぞ。
 松任谷正隆プロデュースでなく、吉田美奈子 or 山下達郎 or 角松敏生プロデュースでの彼女が見てみたかったなぁ。サウンド的にもそっちの方が絶対相性よかったと思うし――て今更反省会しても仕方ないのですが。林田健司のように、作曲家としてヒットメーカーのシンガーソングライターって道もあったと思うだけれども、ぶつぶつ……。
 ま、でも、この知名度であえてベスト盤に踏み切るというあたりで、制作者サイド的に「ぜひ再評価を!」というのは絶対あるんだろうな。