中島みゆき 「あたいの夏休み」

 86年6月のシングル。半年後のアルバム「36.5℃」にも収録されている。
 多分、舞台は夏の伊豆か清里か軽井沢。平凡な庶民の若い女性の「あたい」が、夏休みに二泊三日で大混雑の避暑地に訪れ、粗雑な観光スポットやら安普請のペンションやら安っぽい土産品などをそれなりに楽しみながら、「今年のあたしは勝ってるわ」とほくそえむ、という、サウンドはせっかくクールに決まっているのに、あまりにもリアルで夢のない一曲に仕上がっている。
 ライバル・ユーミンは「ホリデーはアカプルコ」などとバブリーにドリーミーにしゃらくさくなっているっていうのに、こんなもんを夏向け勝負シングルに切る中島みゆきは、ホント、どうかしてる。しかも、ニューヨークのパワーステーションでレコード作っちゃうもんね、キーボードなんて、スティービーワンダーに弾いてもらっちゃったんだから、という一曲なのに。ここまでくると故意犯としか思えない。
 「どんだけ着飾っても、どうせあたし北海道の田舎モノだもの。土臭いもん。でもあんただってホントは似たようなものでしょ?」
 もしかしたら、そのように中島は聞き手に問い掛けたかったのではなかろうか。
 85年のプラザ合意を契機に、日本のバブルの狂騒は始まるわけだが――アルバム「36.5℃」もまさしくそうしたバブル景気を背景にした豪華海外録音アルバムだったともいえる――この曲は、そうしたお祭り騒ぎに対する、自らへのそして周囲への警句だったのかもしれない。
 この歌の詞の視点が、うかれる庶民の「あたい」にありながらも、全体の印象としては、どこか引いたような、ドキュメンタリー的な中立のカメラ・アイに感じるあたりも象徴的だ。