小泉今日子 「KOIZUMI IN THE HOUSE」

KOIZUMI IN THE HOUSE +2(紙ジャケット仕様)

KOIZUMI IN THE HOUSE +2(紙ジャケット仕様)

 89年発表。ハウスミュージックを大胆に取り入れたアイドルポップスとして発売当初から話題になった一枚。近田春夫小泉今日子の共同プロデュース。当時最先端のサウンドメイクで作られた、というだけにとどまらない独特の存在感が、このアルバムにはある。
 テーマは、ゲーノーカイでアイドルというお仕事をしている「小泉今日子」のリアルな日常とその孤独、といったところか。はっきり言えば、内省的で暗い。そしてほのかに妖しい。元気で明るい、溌剌CM女王の当時のコイズミを期待すると完全に裏切られる。
 「Phantasien」が松田聖子の世界に最接近したアルバムとするならば、こちらは中森明菜の世界に最接近した、といってもいい。彼女らしからぬロングソバージュのジャケット写真が象徴するように、二十歳前後の女性の性と体臭が、生々しくも滲み出ている。
 淫靡な夜の気配をプンプンに撒き散らせながらルージーに燃え上がるシングル「Fade Out」にはじまり、まさに芸能界の楽屋裏然とした偽の独占告白手記「好奇心700」、冷えたフローリングの上で孤独に打ち震えていた女が、傷心もそのままに起き上がって冷凍食品をレンジアップする――といった態の「マイクロWAVE」、「なってったってアイドル」のアンサーともいえる「Kyon Kyonはフツー」、瑣末な日常の堆積に思わず叫びをあげる「集中できない」など。ここにおいて、アイドルとしての彼女の虚像を解体され、小泉今日子という実存が浮かび上がってくるのである。
 その彼女の姿は意外にもエロティックであった。とはいえそれも彼女にとっては「アイドル稼業」という名の遊戯のひとつに過ぎない。なにかに差し迫った、のっぴきならぬ表現ではないのだ。「女のわだかまった、不気味な私」って部分もあるのよ、と舌で唇をぺろりと舐めて次の瞬間にはすっかり知らぬ顔をできるのだ。そこが中森明菜との違いでもあり、その小癪さこそが小泉今日子なのである。