渡辺満里奈「EVERGREEN」

 ユーミン全盛期の80年代。麗美小林麻美松田聖子といった、直接関わりあったアーティストはもちろん、平松愛理今井美樹、杏里、南野陽子などなど、間接的ながら影響も強いフォロワーもまたいっぱい生まれたわけだけれども、そんなユーミン路線を敷いていた唯一のおニャン子歌手が、多分、渡辺満里奈
 品のいいポップなサウンドに、詞は附属系の私立高の女の子のほんの少し背伸びな日常(――多分付き合ってる男性は、その附属の大学生)、といった味わい。シンプルでありかつお洒落な、統一性あるジャケットのアートワークもそのラインでまとめている。
 その擬似ユーミン路線がはっきり確定したのが87年9月発売の二枚目のアルバム「EVERGREEN」。今作の発売の三日前に「夕やけニャンニャン」の本放送が終了、ソロのアイドル歌手としての渡辺満里奈をここで確立させようというスタッフの意気込みが感じられる。
 どぎつく聞き手の耳を掴む、カラオケ栄えのする、そんな歌謡曲然とした曲は一切ないのだけれども、さりげなく耳に寄り添う、程よい距離感がある。40分ふっと軽い気分で聞きつづけて嫌味にならず、すっと後味良く終わってくれる。
 これは全曲のアレンジを担当し、サウンドプロデューサー的役割を果たした山川恵津子に負う所大きいかな。タイトルからしてあざとい「マリーナの夏」も不思議とアルバムに馴染んでいる。最初は誰しもビックリする渡辺満里奈の悪声だけれども、このアルバム一枚聞くと不思議と許せてしまうマジック。
 「二本目の川を越すと星の見える数が増えたね」(「夏休みだけのサイドシート」)とか、「この公園のボートに乗った恋人はみんな別れる」(「秋風のボートに乗れば」)とか、シチュエーション・ロケーションが濃やかで、「この歌の舞台はここかな?」と楽しめるのがこの手のユーミン系80年代後半ポップスの楽しさ。
 スノビッシュでたわいないといっちゃそれまでだけれども、時代の空気だなーと、しみじみ。夏のリゾート路線で統一した次作「SUNNY SIDE」もなかなかなので、こちらも是非。基本89年冬の「Two of us」まで、渡辺さんはこのカラーで突き進んでおります。