ジュディ・オング 「白の幻想 〜エーゲ海のテーマ〜」

 シングル「魅せられて 〜エーゲ海のテーマ〜」に引き続き、同様のコンセプトでリリースされたアルバム。シングル同様ほとんどの楽曲が阿木燿子筒美京平コンビ。79.05.21発売。
 いきなり個人的な思い出で恐縮だけれども、このアルバム、ソニーが一枚1500円という破格でLP作品をCDに復刻する「CD選書」シリーズの第一弾として91年に再発売されたもののひとつで、その第一弾のなかには久保田早紀「夢がたり」もあったのね。そういえば「異邦人」いい曲だよね、と、ふらりと手にとって聴いたこの「夢がたり」がもう大傑作。あまりもの完成度の高さに驚き、同時期の「異邦人」と同系統のヒット曲っていえば「魅せられて」だよな、とばかりに当時中学生のわたしはこの「白の幻想」に食指をのばしたわけですよ。
 印象的なインストゥルメンタルから、朝の目覚めのような気だるい「白の幻想」という導入部、そしておもむろにいきなりクライマックス、華麗なる超名曲「魅せられて」と、ここまでのくだりは「夢がたり」とまったく同じ。うおお。これもやっぱり当たりアルバムか!? とおもいきや、一転ブラスが歌謡チックに咆哮する「ミコノスの謎」でわたしゃずっこけた。
 うん、結局、「歌謡曲」なんだよね、このアルバム。「エーゲ海」の部分はあくまでちょっと観光してきましたレベルというか。同時期の筒美京平が担当していたアダルト向けフェミニン歌謡――梓みちよ「リラックス」とか、岩崎宏美10カラットダイアモンド」とか、のラインに「エキゾチック」要素をスパイスとして使いましたって感じ。
 「魅せられて」のごとく圧倒される世界に満たされてはいなくって、わたしゃ萎えたよ、萎えましたね、ええ。シングルでは「魅せられて」〜「惑いの午後」〜「麗華の夢」で三部作と言っていいほどかっちりとした世界を作り出していたのに、アルバム作りはあんまり本気じゃなかったのね。
 ラストを飾る三島風「少年と海」から、ボサの「白い風」の流れに、派手さはないが夏の黄昏の海のような素朴な抒情を感じさせて手堅い良さがあるけれども(――下手に派手モノを入れるくらいならこのラインで統一してほしかった)、「ミコノスの謎」「オリンボス・ハネムーン」「クレタ島の夜明け」あたりは70年代後半の筒美歌謡の世界で、ソレ風を求めると厳しいかと。阿木の歌詞も珍しく咀嚼が足りなく、どこか観光パンフレット風。ジュディのナレーションによる「ギリシャにて」なんて、かなり赤面モノ。
 手を変え品を変えの職業作家の筒美・阿木コンビに歌手としての自意識の希薄なジュディと、エスニックを追求しつづけた久保田早紀だと、思い入れの深さの時点で、ま、違うよなあ。「魅せられて」が大傑作なのは間違いないけれども、このアルバムに関しては、中山美穂「エキゾチック」(86年)、河合奈保子「さよなら物語」(84年)など、その後にリリースされた筒美京平作曲の世界旅情テーマの傑作アルバムの習作という位置づけではないかな、と。
 可能性を秘めながらも、結局ジュディのエキゾ路線は「麗華の夢」までの三部作でいったん終了。再びソニーからは演歌・歌謡曲系の作品をリリースすることになるのだが、それが一転するのが、85年の東芝EMIへの移籍。移籍後初のオリジナルアルバム「うたかたの夢」は、ジュディのエキゾ路線の決定版的な作品といっていいかと。「魅せられて」風を求める人は、ソニーでなく、むしろEMIの作品をチェックした方がいいかもよ、とアドバイスしておしまい。