加藤和彦  「VENEZIA」

 加藤和彦安井かずみコンビのアルバムは、76年の「それから先のことは」にはじまり、91年の「Bolero California」までの九枚、全部が名盤だと思うけれども、一番好きなのは、コレ、 84年リリースの「VENEZIA」。
 なんで、このアルバムが好きなのか、というと、多分、彼のアルバムの中で一番少女漫画的だから、なのかも。アルバムにおける世界観の強固な構築は79年の「パパ・ヘミングウェイ」以来、確固たるものがある加藤・安井コンビだけれども、このアルバムも徹底して「VENEZIA」一色のアルバムとなっていて、で、このふたりの視線によるベニスの街が、いわゆるゴスというか、耽美というか、ロマンチック過剰なダークネスというか、どんだけ腐女子向けなんだよ、という、そういう領域に入ってしまっており、最高です(笑)。
 歌詞だけ引っ張り出しても、「鏡のサロンに閉じ込めた亡霊たち 過去の夢と踊りつづける(「トパーズの目をした女」)」とか「ハープの影から忍び寄る 蛇のような死神の手 近づくフィナーレ アラベスク 真夜中のバレリーナ(「真夜中のバレリーナ」)」とか、「首のないマドンナの すすり泣きが聞こえる夜は…… (「首のないマドンナ」)」とか、もうね、一体どんなマリスミゼルですか、っていう、このゴテゴテのお耽美。素敵過ぎます。もちろん箸休め的な「ハリーズBAR」「ピアツァ・サンマルコ」あたりもしっかり上質。
 森川久美のイタリア漫画(――ヴァレンチーノシリーズとか、「花の都(フィレンツェ)に捧ぐ」とかね)を読みながら、聞きたい、そんなアルバム。その昔、June少女だったというあなたに、是非とも手にとって欲しい一枚か、と。
 ちなみにサウンド的には、「うたかたのオペラ」〜「ベル・エキセントリック」と続いたテクノ系の打ち込みメインのサウンドだけれども、今回はいつもの教授やハリー細野の手を借りずに、 Mark Goldenbergが打ち込みを担当。同時期のMark本人のアルバム「鞄を持った男」とか、彼のプロデュースした加藤登紀子エスニック・ダンス」とサウンドは近いかな。モダンなのに、シックでクラシカルでノスタルジックって雰囲気は、さすが安井+加藤コンビという感じ。