中森明菜 「夢見るように眠りたい」

SHAKER+3

SHAKER+3

ネット上の意見を見ると、80年代後半の典型的な中森明菜の歌唱法――過剰なロングトーン・ビブラート・母音変化によるつまり「おああぁぁ――っ」っていうアレね、を懐かしみ、その復活を望む声がよくあるけれども、不思議とこの曲が取り上げられることがない。97年発売「SHAKER」の中の一曲。おそらく中森明菜が例の明菜唱法を正面きって使用した最後の曲が、多分これ。

往年のエスノ路線を髣髴とさせるフラメンコタッチなサウンドに、ひら歌で丁寧に抑えて歌って、サビで荒ぶる野性が大爆発という、実に往年の明菜の歌唱。「このままあぁぁ」で一気に破裂した後、明菜様の声が、何度も爆発爆発大爆発、例のごとく「眠りたい」の部分は「眠りたぁぁぁああ」、「愛せない」は「愛せなぁぁあああ」になってしまうわけで、「DESIRE」「TANGO NOIR」「AL-MAUJ」レベルのぷんぷん匂うほどに明菜唱法、物真似レベルのデフォルメっぷりなのだが、明菜ファンのあいだ――とくに全盛期の歌唱を復活を望むもの間で、まったくもって無視されているのがわたしには皆目わからない。
結局ああいうこと言う人たちってアルバムをしっかり聞いたりせずに適当に印象批評してるんだろうなと、わたしは思うのですがっ――と軽く喧嘩を売りつつ。

ともあれ少なくとも97年段階では、中森明菜はボーカルの劣化によって明菜唱法ができなくなったわけでなく「ただ単にしたくないからしなかった」その証拠となる一曲。
中森明菜の実験的なボーカルディレクション、もちろん好きだけれども、個人的には時々こういう往年の歌唱でファンを安心させて欲しいよな、と思う。やっぱり激情を表現する時は、この唱法が一番しっくりくるもの。