真璃子「The Best」

 もうひとり、明菜フォロワー。
 86年デビューの真璃子フォーライフ在籍時代(86〜7年)のベストアルバム。シングル七曲のA/B面全てをコンパイルしている。
 80年代後半は歌唱力のあるアイドルにとっては受難期。
 おニャン子ブームを例にあげるまでもなく、歌えないアイドルがその歌えなさゆえに「フツーっぽくっていい」と支持されるようになり、歌の歌えるアイドルたちの居場所がなくなってくる。
 これを契機に女性アイドルポップスは瓦解、90年代にガールズポップと形態を変えるようになるわけだが、んで、真璃子
 当時のおニャン子ブームを撥ねのけるに、当時実力派アイドルの最右翼であった明菜を踏襲せんべく、「私星伝説」「オアシスの涙」「夢飛行」「哀しみのフェスタ」と新人アイドルらしからぬ歌唱力で、アイドルらしからぬエキゾ・ハード路線を披露している。
 もともと歌が上手いのにプラス、声に潤みと翳りがあるので、確かにマイナー調のこういう世界がきちんと表現出来ているけれども、やっぱり背伸びしすぎなんじゃないかなあ、というのがわたしの正直な印象。
 アンチおニャン子の立ち位置なのに、おニャン子本陣といって過言でない「とんねるず」の妹分という触れ込みで活動せざるをえなかった(――事実、とんねるずとのバーターであろうタイアップソングが実に多かった)あたり、アンチおニャン子でありながら秋元康をブレーンに抱え込んでいた本田美奈子と同質の、過度な実力派志向、という感じがする。
 ぶっちゃけえていえば意識しすぎたんじゃないの? と。もっとフツーでよかったのに。
 松本・筒美ゴールデンコンビによる素朴なフォークソング「恋、みーつけた」、中森明菜の「Desire」とまったく同じ作家陣(阿木燿子鈴木キサブロー椎名和夫)でありながら、タイトルからして明菜路線を否定しているような「不良少女になれなくて」あたりが彼女の地という感じがする。
 「不良少女」にはなれない。明菜や百恵にはなれない、こっそり憧れるだけの平凡なその他大勢の女の子でしかない、だけどそれこそが彼女の良さでしょ。これは阿木燿子の卓見だな。
 その後の彼女は、アイドルブームの終焉とともにさりげなくカールズポッパーに変貌、前向きで匿名性の高いポップスを淡々と出すものの大きな評価を得ることは出来ず、96年、地元・福岡に戻り結婚引退。
 90年に尾崎亜美プロデュースの「ヴィーナスたちの季節に」という佳盤を残している。
 それにしても「夢飛行」のイントロの「Papa don't Preach」っぷりには笑けた。山川恵津子女史、やりすぎです。