渡辺美里 「My Revolution」

 歌手・渡辺美里、作詞・川村真澄、作曲・小室哲哉、当時まったくの無名であった三名を一気にスターダムにのし上げたといっても過言ではない86年1月発売の大ヒット曲。ブレイクのきっかけはTBS系ドラマ「セーラー服通り」の主題歌というお決まりのタイアップコースだったりする。
 今聞いても一切色褪せない大名曲だね、これは。もう、イントロのコーラスの時点からとんでもない高揚感が漂うのだけれども、その期待は一切裏切られることなくぐんぐんと聞き手の耳は引っ張られていき、そしてサビの圧倒的なカタルシス!!
 作詞の川村真澄の普遍的な思春期の光と影を擬アメリカ的な風景に絡ませてひとつの淡い青春ファンタジーとさせる見事な手腕(――って、これ、佐野元春以来の、当時のエピックソニー・小坂洋二プロデュース陣営の特徴なんだけれどもね)、渡辺美里の不器用だけれども一心な歌唱もすばらしいのだけれども、やっぱりこの曲の一番の功労者は作曲の小室哲哉だろうな。
 ここにおける彼のメロディーはいうならば清冽かつ豪腕。めくるめく有無を言わさぬ展開にねじ伏せられる、これこそが小室哲哉なのだ。
 こういう今で言う中二臭い、青っちい歌作らせると最高に輝くんだよね、彼って。ま、それは多分彼自身の心が子供だから、なんだろうけれども。他の音楽家の作るティーン向けポップスが、大人が子供にあわせて娯楽を提供している、というならば、彼の場合は子供が同じ子供に向かって「一緒に遊ぼうよ」と誘いかけている感じ。カラオケ需要だ高音志向だと90年代の小室プロデュースの成功を分析した人は多かったけれども、そんなんではなく、あれは、ちょっとオタクで友達の少ない、だけどピアノが弾ける中2の男の子が同い年のみんなと友達になったりちやほやされたりしたいだけのために頑張った――そして同じ中二だから中二の気持ちが考えるまでもなくわかってうまくいった、っていうそれだけなんだと私はおもっている。
 閑話休題。ともあれ、この時小室哲哉はまぎれもなく天才メロディメーカーだった。
 ここから五年くらいの小室哲哉は物凄い打率で美メロをくりだしていき、次の五年でその安っぽい焼き直しでボロボロとミリオンヒットを量産し、それから先は心根を腐らせてまともなものは何もかけなくなってしまう。
 多分小室復活のキーワードは、この頃の子供のような(多少の邪気すらも含んだ)清新さと直観力なのだろうが、逮捕後の妙に反省し萎縮しきった彼にはたしてそれは可能なのかと考えると難しい。