小林麻美 「GREY」

 ユーミン+麻美コラボ三部作の最終作。87年3月発売。今回はほぼ全ての作詞・作曲をユーミン自信が担当し、サウンドプロデュース・編曲は後藤次利に依頼している。
 後藤の音作りは、当時の原田知世河合その子で見せたサウンドに近い質感かな、所々ヨーロピアンなロマンチックさを醸し出しつつも、仕上がりとしてはわかりやすいポップスという感じ。
 ユーミンの曲も、歌うトレンディ・ドラマとして全開バリバリだった当時のそのままのテイストで、都会暮らしの三十歳前後の独身女性のありそうでありえない日々を私小説的に切り取っている。
 前2作のいかにもな絵空事然とした虚構ではなく、手に届きそうな、現実味のある、今の自分よりも一歩ラグジュアリーな、虚構。
 出るはずのない恋人にかける深夜の電話の呼び出し音を「夜の響きを聞いているの」とか言えちゃう、しゃらくさく、乙女ちっくでバブリーな、これがまさしく80年代であったのだな、と。今あらためて聞くと妙になつかしくも感じる。
 ユーミンの「DA DI DA」や「ALARM a la mode」、「ダイヤモンドダストが消えぬまに」のラインが好きならこれもんの世界だけれども、高飛車でエロティックな雰囲気があるのが、麻美のバブリー三部作と当時のユーミンの諸作との大きな違い、かな。「ルームサービス」と「GREY」なんて、並べるとほとんど事前と事後のよう。
 ハイライトは「夜の響きを聞いている」〜「昼の三日月」〜「I miss You」〜「飯倉グラフティー」の中間部。「昼の三日月」のサビ前のブリッジの意識が失墜するような感覚、「I miss You」の間奏のロマンチックにスリリングなエレピの音色、「キャンティ」を根城にしていたユーミンと麻美の若く鼻っ柱の強い少女だった頃を懐かしくちょっとスノッブに歌った「飯倉グラフティー」など、いい曲並んでます。
 もうちょっと歌ってもよかったように思えるけれども、歌仕事はこのアルバムで終了。その後は、CMやら女性誌やらのいつもの定番の場で数年活動したあと、事務所の社長と結婚・引退。