本田美奈子「殺意のバカンス」

 ルージー・アンド・ミステリアスなデビューシングル。
 海辺のリゾート地のひと夏かぎりの妖しい恋、という当時でいうなら小林麻美あたりがベタハマリするような、お高い設定。誘惑する男たちに、金のピアスをプールに投げて「拾って御覧なさい」ってどんだけ。
 さらにドスの効いたロングトーンで持ち前の歌唱力もドヤ顔披露、と、この時点からありえないほどに背伸びしまくっている。
 中森明菜ですら、この路線って「Fin」・「CRIMSON」以降なわけで、それをデビューシングルでトライするって……無謀が過ぎる。
 レコードだけ聞いていると、ボーカルコントロールがいささか荒削りながらも(――彼女って基本的に抑揚のつけ方が大袈裟すぎるんだよね)、なかなかいい雰囲気が出ているのだけれども、これに美奈子のキュートでロリータな容貌が加味されると、ナニコレ、と変化。
 アイドルという器に収まりきらず結果なヘンテコになってしまう本田美奈子の原点ともいえる曲。売野お得意のリゾートモノの詞も手堅く、筒美京平のボーカリストの一番おいしい所を引き立たせるメロディーラインも鉄板、中村哲の時代の半歩先のごりっとしたデジタルアレンジも、いい仕事しているんだけれどもね。
 個人的には、好きな曲だけど、五年、せめてあと三年後にもってくるべき。カチッとしたブランド服さらっと着こなして様になるキャラなって、そこで初めて活きる路線だよ。
 ま、本人のどうしてもの希望でデビューシングルとしたのだから仕方ないのだけれども……。このあたり、アイドルのわがままを笑って許しちゃう「高杉敬二プロデュース」の悪い部分が出ているかと。