柏原芳恵 「アンコール2」

アンコール2

アンコール2

 10.05.26発売。男性歌手カバーの第二弾。
 これ、デモ音源だろ。売り物にしていいサウンドちゃう。オケがひどい。ざっくりで言えばカラオケボックスレベル、あるいは15年位前の個人サイトで流れるMIDIレベル。今日日、ニコ動にいる素人プロデューサーすら、DTMでもっと分厚く凝った聞かせるサウンド作るわ。インディーメーカーとはいえ程がある。レコードアーティストとしての矜持があるなら、これで吹きこむというのは、ない。
 なのに、切れるでもふて腐れるでも心を遮断するでもなく、それなりに心をこめて歌う柏原芳恵。んでもって結構うまいんだよ、これが。歌唱に関しては完全に水準以上いってる。
 とはいえそこに必死さ、凄絶さ、気迫というのは漂わない。フツーならばこんな企画、零落れても歌にしがみつくしかない元アイドルの四十女の憐れさや哀しみのようなものが立ち上がろうものですよ。でもないのよ、それすらも。
 柏原芳恵がなにを考えているのか、全く見えない。技量ある歌い手なのに、こんなしょぼいサウンドでやっつけカバーアルバムやらされて、決していいことではあるまいに、それが悲しいのか嬉しいのか、その単純なことが、聞いていてもまったく分からないのだ。エロティックな写真集やイメージビデオの仕事をこなすのと彼女のテンションはほとんどおんなじ。正体の見えない怪物性という面では、同期の松田聖子と同レベルにあるんじゃなかろうか。悪意ある都市伝説が彼女の周りにはびこって消えないのは、彼女のこの怪物性に起因しているんだろう。
 濡れ濡れとして隠微な演歌・歌謡曲をほとんど本能で歌いこなすという、アイドル時代から変わらぬいつもの柏原芳恵ではあるが、周囲のやる気のなさ、志という点ではダントツに低い残念な一枚。30周年でこれかよ……。ノーモア・アンコール。